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船越裁判

船越 公務災害認定裁判

神戸地裁で勝訴

声明  船越賀代子さんの公務災害認定を求める裁判の勝利判決にあたって

 2011年12月15日(木)午後1時15分、神戸地方裁判所第6民事部において、船越賀代子さん(元兵庫県尼崎市立立花南小学校教 諭)の疾病及び障害を公務災害として認める判決が下されました。

 裁判官が、原告の過酷な労働実態をよく理解し、私たちの主張を認める判決を出されたことに、原告とご家族、並びに支援者一同感謝の 意を表します。また、弁護士の方々、関係者の方々、裁判を支えていただいた多くの方々に厚くお礼を申し上げます。

 原告は2004年3月16日、5校時終了後突然気分が悪くなり救急車で病院へ運ばれ、くも膜下出血と診断されました。緊急に手術を 受けましたが、脳梗塞後遺症による四肢麻痺などの障害が残りました。原告は、当時、6年3組の学級担任をしており、1週間後の卒業式 に向けて激務をこなしていました。原告の発症直前1ヶ月間の時間外労働は、自宅での持ち帰り仕事を含めると140時間以上でした。し かも、発症に近づくに従い時間外労働が増加し、直前の1週間は40時間を超えていました。発症当日は、自宅で前夜より午前1時30分 まで仕事をしていました。この労働の過重性こそが原告に疾病及び重度の障害を与えたことがはっきりしたのです。

 裁判では原告の熱心な指導ぶりが明らかになりました。原告は、毎日のように『持ち帰り残業』を行っていました。卒業に向けての仕 事、成績処理、ノート点検や授業の準備、帳簿の記入等の仕事の多さが浮き彫りにされました。原告はこれらの仕事の記録を日常的に細かに残していました。教務必携・備忘録といった原告自身の物から、児童のノートやテスト等、さらに学級通信といった物が『持ち帰り残 業』の証拠(具体的成果物)として大きな力を発揮しました。

 原告が被災してすでに7年が経過しました。原告は教員としての身分を失い、今も重度の障害に苦しんでいます。私たちは、被告(地方 公務員災害補償基金兵庫支部)がこの判決を受け入れ、被災者とその家族を救済することを求めます。また、教育現場での長時間過密労働 は、今も解消されることなく続いています。県教委・市教委・校長に対しては、この判決を契機として、二度と船越さんのような被災者が 出ないように労働条件・教育条件を改善することを求めます。

 『正しき者に力を、力ある者に正しさを』という言葉があります。現実の世の中は、この言葉のようには実現されていません。今回は、 裁判によって正しい者に力が与えられたことを強く感じます。勝訴によって世の中の理不尽が一つ改まりました。しかし、判決で勝訴しても原告の体がよくなるわけではありません。今後も原告のリハビリとご家族による介護は続きます。早期に裁判が終結して、ご家族が安心 して介護に専念できることを願っています。

 

     2011年12月15日 

     船越賀代子さんの公務災害認定を実現する会

     尼崎市教職員組合

事件の概要と経過

・原告……船越賀代子さん。当時、兵庫県尼崎市立立花南小学校6年担任。45歳。

・2004年3月16日5校時終了後、くも膜下出血。緊急手術を受けたが、重度の障害が残る。

・経過

  05年 3月  地方公務員災害補償基金兵庫県支部に公務災害認定を請求

  07年 3月  公務外と認定

      5月  地方公務員災害補償基金兵庫県支部審査会に審査請求

  08年 9月  棄却

     10月  地方公務員災害補償基金(本部)審査会に再審査請求

  09年 3月  神戸地裁に提訴

  11年12月  勝訴 → 基金控訴

  12年 4月  控訴審(大阪高裁)第1回公判。即日結審。

      7月  勝訴 → 基金上告せず、勝利判決が確定(発症後8年4ヶ月)

船越公務災害認定裁判の争点と判決

 

基金が公務災害として認定しなかった主な論点は、以下の2点でした。

 

① 船越さんに長時間過重労働はなかった。

 基金は、船越さんの持ち帰り残業を一切認めませんでした。持ち帰り残業の成果物なければ持ち帰り残業の存在を認めない、持ち帰り残業は自宅で行うから精神的・肉体的な負担が少ない、と判断したからです。また、休憩時間や給食時間も勤務時間に含めるべきではないとしました。発症前1ヶ月154時間の時間外勤務の内、認定したのはわずか30時間程度でした。

時間外労働時間の殆どを自宅への持ち帰り残業として行っていた船越さんの場合(出勤は午前8時頃、退勤は午後6時頃)、持ち帰り残業の実態とその時間数が最大の争点となりました。

  ・学年の同僚に聞き取り調査とアンケート→陳述書  ・ひとこと意見書(46人。労働実態)

  ・6年担任勤務実態調査(同年代の女性教員18人。2~3月)

 

② 本件疾病は、高血圧の持病が自然経過により発症した。

 基金は、「原告には、くも膜下出血の家族歴と高血圧症が存在しており」「破裂しやすい状態となった脳動脈瘤が、その自然的経過において増悪し、発症したと考えられる」とし、高血圧症の治療によって血圧がコントロールされていたことを認めようとしませんでした。

神戸地裁判決、大阪高裁判決ともに、船越さんが主張していた労働時間をほぼそのとおり認定し、小学校教諭の労働の特質と持ち帰り残業の実態を非常に丁寧に認定した完全勝利といえる判決でした。特に高裁判決では、自宅での持ち帰り残業について成果物がなくても、同僚などの証言によって公務に要する時間を推認することも許される、と判断しています。教え子の成長を考えれば「ここまでしたら終わり」というものがない教員の仕事の特質を考慮して時間外労働時間数を認定すべきであると指摘している点は、正に教員の仕事の実態を見抜いた大変すばらしい判決でした。

原告主張・被告主張・判決のまとめ

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